電力自由化時代 2
電力小売り全面自由化の成功のカギを握るのは、「卸電力取引所」の動向にあるといっても過言ではない。日本に先駆け小売り自由化が行われた海外の事例をみても、自由化の進展とともに卸電力取引所の取引量も拡大の一途を辿った。既存の電力会社のように豊富な電源を保有していない小売り事業者は、卸電力取引所から電源を調達することが供給力確保の重要な資源となる。たとえば、世界で最も成功したケースとされる北欧の卸電力取引所「ノルド・プール(Nord Pool)」の取引量は、実に北欧全体における電力消費量の70%超に相当する。(写真は経産省HPから)
日本で唯一の卸電力取引所である「日本卸電力取引所(JEPX)」は、2005年4月から取引が開始されたものの、2013年3月までは取引量が国内の電力消費量の1%にも満たなかった。その後、小売り全面自由化が本格議論されるに伴い、卸電力取引所の活性化が重要なテーマとなった。
まず、一般電気事業者による卸電力取引所への供給力の投入量(売り)を増やすよう、国が主導して促したことで、売りの増加に連動して2013年4月の取引量が、初めて国内の電力消費量の1%を超えた。その後も、国が取引動向を監視することで、取引量は順調に拡大し、2016年1月時点では約1.6%となっている。
主要な取引である1日前取引(スポット取引)では、3月まで土日や祝日、年末年始は市場が休場となっていたが、今年4月以降は365日取引が行われるようになった。これまでは、たとえば土日と翌月曜分の電気は、休日前の金曜日に、この3日分が取引されていたが、今後は常に変動する電力需要に合わせて供給力が確保しやすくなるよう、毎日1日前の取引ができるようになった。さらに、より実需給にあわせて電力の売買ができるよう、1時間前市場も新たに開設された。これまでは、実需給の4時間前の電気が取引できる4時間前市場が行われていたが、ほぼリアルタイムで電気の売買ができる1時間前市場の誕生により、特に新規参入の電力会社は、実需給に応じた電源の確保ができるようになる。
欧米諸国に遅れること10数年、日本でようやく電力の小売り全面自由化がスタートした。インフラの根幹を担う「電気」という特性上、これまでの一般電気事業者が圧倒的な支配力を持っている状況に変わりはない。こうした状況下、適正な競争が働くよう、2015年9月には経済産業大臣直属の8条委員会として「電力取引監視等委員会(八田達夫委員長)」が誕生した。どこまで適正な競争が働くかは、国による取り組みが一定の役割を果たすものの、自由化の成否は市場原理の導入・浸透がいかに進展するかにかかっている。